ユーザーインタビュー / 真空低温プローバー 静岡大学電子工学研究所 
田部道晴教授

導入事例:真空低温プローバー、静岡大学電子工学研究所 田部道晴教授 導入事例:真空低温プローバー、静岡大学電子工学研究所 田部道晴教授

シリコンデバイスに革新をもたらす「ドーパンド原子デバイス群」を世界で初めて提案した静岡大学電子工学研究所の田部教授に弊社真空低温プローバーの使い方についてお話を伺いました。

(コンテンツ作成日 2015年5月)

研究室の研究内容や目標についてお聞かせください。

当研究室では、ドーパンド(不純物)原子と単電子トンネリングを利用したトランジスタを基本に、数個を利用したメモリ、フォトニックデバイスなどへの基本機能の実証により、これまでの概念を一新するドーパンド原子デバイスの開発に取り組んでいます。具体的には、さまざまなデバイスを試作した後、数Kから室温に至る広い温度領域で極低温プローバーを用いて電気特性を測定し、その動作原理を確立していくことが研究の中心となります。
また、この研究を進める上でドーパント原子の電位分布を観察することは大変重要で、そのために走査プローブ顕微鏡の一種である極低温ケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)を立ち上げ、デバイス構造に近い状態でドーパント原子の電位分布を観察してきました。

まだ先の技術ですがこの原子デバイスが実用化されると、トランジスタやメモリなどの超小型化、高密度化、高機能化、省力化がさらに進展すると考えられます。
これはエレクトロニクス分野だけではなく医療やバイオ分野など異分野融合の要請が強い日本の産業構造の発展にも手助けになるのではないかと期待しています。

極低温に関連し最近の主な研究成果についてお聞かせください。

半導体集積回路の世界では、技術の進展目標を産業界・学界の共通理解の土俵に上げる有名なITRS(国際半導体技術ロードマップ)という国際指標があります。
しかし、トランジスタの微細化限界が近づいてきて、既存技術の発展形ではITRSを示せなくなってきました。このような流れの中で、次の新しい技術の芽生えが待望され、ドーパント原子デバイスも日欧米豪などを中心に次第に研究者の数が増えて新技術としての認知度が上がり、ITRSでも取り上げられるようになってきました。
日本では、この研究室や東北大、富山大などの研究者と”原子トランジスタ”として共同で研究に当たっています。この原子トランジスタは、今まで極低温でしか実証できなかったのですが、今では100Kを超える「高温」で動作させるところまできました。もともとドーパント原子1個を利用しようとすると、その井戸型ポテンシャルに電子を閉じ込める必要がありますが、温度が高いと電子はすぐに出払ってしまって動作しなくなるのです。
しかし、私たちはトランジスタの形を工夫すると電子を深く閉じ込めることができることを示し、それが高温動作化につながりました。しかし、このデバイスの実用化には、まだいくつかの関門を乗り越えねばなりません。

極低温プローバーの導入の経緯や用途についてお聞かせください。

前職(NTT研究所)時代から「極低温プローバーといえばナガセ」という評判を聞いていましたので、20年ほど前にこちらに移ってトランジスタの研究をするようになり、迷わず一台目の極低温プローバー(BCT21-MDC)を導入しました。
この極低温プローバーは、一番低い温度で13K(ケルビン)位まで測ることがきるもので今も現役で使っています。ただ13Kから下の数Kの底のところが、研究者にとってものすごいご馳走になるのです。研究者の間では、「10数Kの測定では、ずいぶん高い温度で測ってますね」と皮肉を言われたりします(笑)。それでまた6K以下を測ることができる2台目の極低温プローバー(GRAIL21-415-6-LV)を2012年に導入したのです。
ただ、すべての実験がそのボトムの低温域に注目して使っているわけではないので、双方とも上手く使い回し重宝して使っています。
例えば、最初に導入した極低温プローバーは、分光した光の照射下で電気特性を測定できるように蓋つきの窓を作って改造して使っています。この極低温プローバーを使って測定したフォトン(光子)検出デバイスの論文は、ドイツの専門誌から評価していただき、その年の優れた論文のひとつとして表紙に掲載されました。
2台の極低温プローバーは、いつも空気のような存在で当たり前のように使っていますが、長時間使い続けても温度の安定性がとても優れているところを評価しています。我々が行っている研究は、温度が1度でも違うと特性は大きく異なってしまうので長時間の自動測定における温度の安定性は非常に重要です。

メンテナンス体制も持ち上げているわけではなく何の不満もありません。自分達では対応できない問題があっても、非常に良く対応していただいていると感じています。

今後の研究展開についてお聞かせください。

これらの研究は若い研究者に託し5個や10個のドーバンド原子を入れたり、もっと常温に近づけてマスプロダクションに乗せていくなど、これまでの半導体工学を一新する成果を期待したいと思います。
特に私の研究室では、これまで多くの外国人研究者、外国人博士課程学生と共に研究を進めてきました。
中でも、ルーマニア人准教授のダニエル・モラル博士はその中心になって活躍してくれています。

今後の日本の科学技術の発展のためには真に開かれた国際化が必要で、それが日本人の若手を刺激し切磋琢磨しあい、また多くの親日家を生み出すという良きサイクルを作りたいものです。

ありがとうございました。

ダニエル・モラル准教授(左)
田部 道晴 教授(中)
営業グループ:井上 英明(右)

お客様概要:
ご使用機種名
真空低温プローバーBCT21-MDC
真空低温プローバーGRAIL21-415-6-LV

静岡大学 電子工学研究所
URL:http://www.rie.shizuoka.ac.jp/
静岡大学電子工学研究所極限デバイス研究部門 ナノデバイス分野田部道晴研究室
URL:http://www.rie.shizuoka.ac.jp/~nanohome/
所在地:〒432-8011 静岡県浜松市中区城北3丁目5-1 静岡大学電子工学研究所