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ユーザーインタビュー: 大阪大学 産業科学研究所  松本和彦 教授  

導入事例:真空低温プローバー、大阪大学 産業科学研究所 松本和彦 教授

「産業に資する科学研究の推進」をミッションに情報・生体・材料の各技術の最先端研究と、それぞれの技術領域を超えた学際的な研究開発を手掛ける大阪大学産業科学研究所にあって、半導体量子科学研究分野(松本研究室)では、量子デバイスの実用化に向けた研究開発に挑んでいます。今回は、同研究室を主宰し、当社のプローバーのヘビーユーザーを自認する松本和彦教授に、直近の研究成果やプローバーの評価などについて語っていただきました。

松本先生および研究室での研究内容についてお聞かせください。

話しは遡りますが、私は以前、電子技術総合研究所でガリウムヒ素(GaAs)の化合物半導体を使ったHEMT(高移動度トランジスタ)やHBT(ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)などの高速トランジスタ開発に携わっていました。プロジェクトが完了し、次なる研究テーマを模索していたところ、量子効果による単一電子トランジスタの研究開発に着目しました。単一電子トランジスタは、従来、0、1というデジタル情報を10万個程度の電子の存在で表現していたものを1個の電子で表現することで、これまでにない低消費電力を実現する画期的なデバイスです。こういった現象を室温で達成させるためには超微細加工技術の確立が不可欠。そこでSTM(走査型トンネル顕微鏡)を使った半導体の表面構造の微細加工法を開発しました。その際、探針(プローブ)に利用したCNT(カーボンナノチューブ)の電気的特性に着目し、以来、ナノカーボンを利用した量子デバイスの研究に魅せられてしまいました。

STM微細加工法で開発した世界初の室温動作単一電子トランジスタの構造と特性

そして、2003年に大阪大学の産業科学研究所に着任してからは、ナノカーボンのデバイス作製に効果的な合成方法から、その評価、量子デバイスへの応用に至るまで幅広い研究を本格的に手掛けるようになりました。ナノカーボンとは六角形格子構造を有する炭素の単原子層であり、電気的には導体や半導体として振る舞うことができることから、半導体材料として有望です。材料として利用する場合は、シート状のグラフェンと、筒状のCNTがあります。現在、私たちは、CNTを利用した単一電子メモリと、グラフェンを利用したバイオセンサーの研究開発に注力しています。

直近の研究成果と、将来の展望についてお聞かせください。

単一電子メモリは、先に述べた通り、ソース‐ドレインの電極間に電子1個の存在の有無で1bitを記憶する素子です。0K(−273.15℃)に近い極低温下では実現できるものの、室温で実現するのはなかなか困難。そこで、私たちはソース‐ドレイン間をCNTで架橋したメモリの作製に成功し、室温での電気的特性を測定したところ、CNT内に1個単位で電子が蓄積されていくメモリ効果を確認することができました。また、この際、従来のフラッシュメモリの1/100という低電圧動作も実証できました。実用化できれば、数週間も充電なしに使えるスマホなんていうのも可能でしょう。さらに、低消費電力化が達成できるということは、あらゆる電子製品の小型化の課題となっている発熱の問題も解決できます。まさに、いい事ずくめです。今後は、量産化に向けて、半導体プロセスでCNTを効率的かつ確実に成長させる方法を探究していきます。
ちなみに、この技術は国内特許を取得済みで、海外各国の特許も出願中です。これで莫大な特許収入が入ればいいのですが(笑)。
それと、この研究を通じて、興味深い発見がありました。さまざまな環境下での電子の挙動を観察していたところ、粒子として振る舞っていた電子が波として振る舞う瞬間、つまり量子力学における「粒子と波動の二重性」を実際に確認することができ、感動しました。今のところ、何の役にも立たず、お金にもならないのですが(笑)…。これも研究成果のひとつです。

10nmのゲート長を有するカーボンナノチューブ単一電子メモリ
室温においてゲート電圧を220mV印加するごとに一個の電子が界面にトラップされて閾値電圧がシフトするメモリ効果を示す特性

4Kの低温で電子の粒子性を示す単一電子トランジスタのクーロンダイアモンド特性(電子を30個カウントしている)と波動性を示す共鳴トンネル特性

一方のバイオセンサーは、シリコン基板上にグラフェンを貼ったトランジスタを作製し、標的とするウイルスがヒトの糖鎖に結合するかどうかを電気的に識別するもの。そのアイデアは、タンパク質、ウイルスのそれぞれの研究者から得たもので、彼らとの共同研究です。従来の検査方法では、採取したウイルスを増殖させる必要があり、結果が判明するまで数日間かかっていました。グラフェンを活用したセンサーは、圧倒的に電気的な感度が高いため、ウイルスの増殖を待たずその場で識別できるのが最大のメリット。この先、1-2年を目途に可搬型のプロトタイプを作製し、数年後の実用化を目指しています。 私たちが作製したのは、極めて毒性の高い鳥インフルエンザウイルスを標的としたセンサーですが、ウイルス表面のタンパク質を解析すれば他のウイルスにも対応することができます。また、この原理を応用すれば、抗ウイルス剤が対象とするウイルスに有効であるかを識別することも可能で、新薬開発にも貢献するはずです。
この研究成果は学会発表を通じて、国際的にも高い評価を得て、現在は国内外の研究者や企業との共同研究を進めています。

糖鎖修飾グラフェンFETによるインフルエンザウイルス検出模式図と検出結果

研究における当社の極低温プローバーの評価やご要望などがあればお聞かせください。

私がNTEの低温プローバーに出会ったのは、単一電子トランジスタの研究開発に着手した1993年頃です。この研究では極低温の環境下での電子の動きを観察必要があるため、低温プローバーは欠かせません。当時使用していたプローバーは寒剤に液体窒素を使った物で、80K程度が限界でした。そこで数Kレベルのプローバーを探していた矢先、機械式冷凍機を使い極低温を実現したNTEのプローバーがリリースされ、思わず飛びついてしまいました。だから、私はNTE極低温プローバーのユーザー第1号。当時はかなりの大型装置でしたが、新機種がリリースされるたびに、コンパクト化されるのと同時に、機能の拡張や使い勝手の面での改善が進み、気が付けばNTEプローバーのヘビーユーザーにされてしまいました(笑)。お世辞抜きに「NTEのプローバーに出会わなかったら、現在の研究には至らなかった」と言っても過言ではありません。
現在、メインで使用しているプローバーの優れた点は、ボンディングが不要なこと。微細な電極のひとつひとつにボンディングする煩雑な作業が不要なので、実験の効率化が図られます。また、極低温から室温までの温度や磁場など、さまざまな環境での計測が自在にできることで、予期できない事象を発見することもできます。さらに、顕微鏡にCCDカメラを搭載しているため、モニタを見ながら自然な姿勢でステージを操作できるので、操作性が格段に向上したと思います。
このように現場の研究者の要望を取り入れて設計された装置なので、非常に満足しています。強いて要望を挙げるとすれば、もっと強い磁場を発生させるマグネットキットが欲しいということ。これがあれば、私たちの研究も飛躍的に進むことでしょう。

最後に、まったくの余談ですが、優れた実験装置に出会えたラッキーな研究者の一人として提言しておきたいことがあります。
私たちの研究に限らず、最先端技術の研究には、優れた実験装置が不可欠です。恵まれた研究環境が優れた研究者を育みます。特に資金調達力、人脈などが乏しい若い研究者のために、これまでのように実験装置をひとつの研究機関が単独で購入するのではなく、地域単位などで共同購入し、皆でシェアできるような仕組みが必要です。私の残りの研究者人生は、そのような環境づくりにも尽力したいと思っています。

ありがとうございました。

研究スタッフとNTE営業担当
(後列左から、牛場 翔太さん、小野 尭生さん、松本 和彦 教授、井家 孝文(NTE)、金井 康さん、モハメッド モクタールさん
前列左から、岡崎 凌さん、南保 舞子さん、山本 佳織さん、黒松 亜紀さん)

お客様概要:
大阪大学 産業科学研究所 半導体量子科学研究分野(松本研究室)
URL:http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/se/
大阪大学 産業科学研究所 半導体量子科学研究分野
URL:http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/organization/fir/fir_02/
所在地:〒567-0047 大阪府茨木市美穂ケ丘8−1



(コンテンツ作成日 2017年8月)